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ペナルティ さん

ペナルティ

よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属のお笑い芸人[ペナルティ]ヒデ/ワッキーのネタ動画や情報を紹介。

ペナルティ
  • 所属事務所 吉本興業
  • 活動開始年 1994
    ※活動開始年は芸歴ではなく、現在の形態での開始年としています。
  • 編成人数 コンビ芸人
  • 芸風ジャンル コント
  • タグ -


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ペナルティ メンバー

ヒデ

よみがな:ひで
本名:中川秀樹
生年月日:1971年4月7日
血液型:O型

ワッキー

よみがな:わっきー
本名:脇田寧人
生年月日:1972年7月5日
血液型:B型

Blog

ペナルティヒデnote

  • 短編・六月の雨2024⑨
    on 2024年7月14日 at 14:14

    夜行列車に乗る前の、あの刹那の時間…。いや、もしかしたら長い時間、そこに居たのかも知れない。時計を見た訳でも、家を出て汽車に乗るまでを逆算した訳でもない。ただ時間は流れていたが、それは俺の周りだけの話で、俺自身に流れる心の時計の針は止まっていたのだろう。あの時の俺は平常心ではなかった筈だ。誰かに見つかるのではないかと神経を使っていたであろう。例えば家族の連絡を受けた警察に声をかけられて連れ戻されるのではないか、家に連れ戻されたらオヤジや兄貴に殴られるのではないか、タチの悪い輩に絡まれてしまうのではないかと…。そんな風にビクビクと震えていた筈だ。周囲からまるで逃亡者のように焦燥した姿に見えていたかも知れない。そうか…逃亡者か…。俺は逃亡者なんだ。その言葉がまるでパズルのラストピースのようにしっくりと音を立てて当てはまった。たった今、自分が何者だったのか、分かった気がした。続きをみる

  • 短編・六月の雨2024⑧
    on 2024年7月9日 at 17:06

    バー『QUEEEN』に流れていたBGMはいつの間にか止んでいた。きっとママが気を遣って止めたのだろう。俺と森田さんの会話を邪魔しない為に。「どうぞって…」俺は2人を見やった。此処は1曲弾けという事だろう。2人とも俺を見る目がほくそ笑んでいる。意地悪な2人ではない事は重々承知だ。という事はだ。これはテストに違いない。俺にプロとしてやってけいる腕前と覚悟、そして何よりも大切な度胸が本当にあるのかを試す為に。森田さんはクイっと顎をギターに向けた。弾いてみろという合図だ。やはりそうだった。プロの世界は甘くないという事だ。逆に森田さんなりの愛情だ。俺の中に緊張が走った。人前で弾くのは初めてじゃないが、素人相手とプロの前で弾くのとは大違いだ。曲の選択も何にするか…それも重要だろう。だが、俺の予想に反して森田さんの口からついたのは意外な言葉だった。続きをみる

  • 50代からのPOPな終活余命25年と考えてみた⑥
    on 2024年7月9日 at 10:25

    6回目となる今回は【1日の使い方】つまり【時間の断捨離】について僕なりの考え方をお話ししたいと思います。全ての人間に平等に与えられたものの1つに【時間】といものがおります。これはどんな人にも1日か24時間、1時間は60分と世界共通で決まっている。調べてみるとそもそも時間とは時間とは、出来事や変化を認識するための基礎的な概念だそうで、芸術、哲学、自然科学、心理学などで重要なテーマとして扱われることもあり、分野ごとに定義が異なるものと書かれていました。ぼんやりとした言葉【時間】には数々の名言が残らせています。その一例をご紹介しましょう。『未来とは、今である(マーガレット・ミード)』『老齢は明らかに迅速なり。われらに必要以上に迅速に切迫す(プラトン)』『この地上で過ごせる時間には限りがあります。本当に大事なことを本当に一生懸命できる機会は、二つか三つくらいしかないのです(スティーブ・ジョブズ) 』『明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ(マハトマ・ガンジー)』などなど、古今東西、多くの有識者達が【時間】についての名言・格言を残しています。続きをみる

  • 短編・六月の雨2024⑦
    on 2024年7月4日 at 08:50

    六本木のバー『QUEEN』を訪れて1時間程が経った頃、先客の男が帰り、客は俺と森田さんの2人だけとなった。元々無口な2人。急に店内は静まり返り、頼りないボリューム音のBGMだけがゆっくり流れている。「気をつけて帰ってね、おやすみ」ママは男を見送ると、ドアのウエルカムボードをクローズに返した。空いたグラスを下げながら俺達を気遣ってので事か、ママは音楽のボリュームを上げた。クラシックな音楽も悪くないな、と初めて心から思えた。歳を取ったのか、雰囲気にのまれているのか。「悪いな」森田さんの言葉が微かに聞こえたようで、ママはクスッと笑って答えた。「綺麗だろ?」この店に来て、初めて森田さんが浮かべる表情ばかり俺は見ていた。酔っているのか。いや、ママに心酔しているという方が正しいのだろう。目元にいつもの凛々しいばかりの鋭さがなく、トロンとした優しい眼差しだった。「はい」俺は心からそう返事した。ママには綺麗という言葉が本当に似合っていた。顔立ちも美しいのだが、髪の先から指先まてで全ての上品に整えられていた。所作もしなやかで美しかった。マドラーを回す白魚のような手、細くしなやかな手首。正直、俺自身もそのママの動きに目を奪われていた。「女だと思ったろ?」「はい」「俺も最初はそうだった」森田さんは氷の溶けたウイスキーをクイっと運んだ。「当然の事です。それだけママはお綺麗ですから」「知らなければ誰もが女だと思う」森田さんの眼差しは美術品を見入るようなものだった。「まだ信じられないでいます」俺もママをじっと見た。「俺もだ」森田さんは笑った。俺もママに、そしてママを想う森田さんに心の中で乾杯した。聴き覚えのある曲が流れた。中1の頃、音楽の授業で聴かされたものだった。勉強が苦手な俺は、授業が大嫌いだったが、音楽の授業だけは別だった。クラシック音楽が好きな訳ではない。音楽の先生が好きだったのだ。初恋のようなものだった。水沼という女性教師だった。名を文と書いてアヤと呼んだ。音楽大学を卒業した1年目の先生だった。髪にカールが掛かったフランス人形のようなキュートな先生だった。純粋で一生懸命の水沼先生を不良グループはからかったり、授業の邪魔をした。本当にどうしようもないガキの集まりだった。水沼先生はその度に悲しい顔をしていた。俺はその不良共に腹が立っていたが、怖くて何も言えなかたった。見て見ぬふりが出来ない女子生徒達は不良共といつも言い争っていた。不良達の執拗な嫌がらせで水沼先生は教師になって2年目の夏、体調不良を理由に教師の職を辞めてしまった。俺は胸をえぐられる位に苦しんだ。暫くの間は眠れぬ程に水沼先生を助けてあげられなかった自分の愚かさを悔やみ続けていた。今も時々あの時の苦悩に襲われる夜があった。「どう思う?」森田さんはママの後ろ姿に言った。俺はその声に一旦、水沼先生を記憶の向こうに仕舞い込んだ。俺は焦点をママに戻した。そんなママは丁寧に洗ったグラスを磨き始めている。「何がですか?」水沼先生の事を考えていた俺は森田さんの言っている真意が分からず聞き返した。「だから、女としてありか、だ」森田さんは照れ臭そうに尋ねた。「好きなんですね」森田さんの言いたい事を把握した俺は森田さんを真っ直ぐに見た。「随分とストレートに言うんだな」「変化球が投げられないんです」森田さんはフッと笑うと「惚れてる…」と隠さずに呟いた。「ママは?」森田さんは俺の空のグラスにウイスキーを注いだ。俺は自ら氷を足した。今夜は長くなりそうだ。「さぁ」森田さんは首を横に振った。「告白したんですか?」「バカ言え」「言ってないんですね」酒ではあまり顔を赤らめない森田さんが耳まで真っ赤に染めた。「言えばいいじゃないですか」俺は少し面白がっているようだった。僅かばかり口調を強めて尋ねた。「お前なぁ、そんな簡単に言うなよ」俺は口を尖らせた森田さんが、なんだか可愛く見えて仕方なかった。静かな店内にはクラシックな音楽がゆったりと流れている。「ママも1杯飲まないか?」森田さんはひと段落着いたママに言った。ママは顔をこちらに向けた。斜め横から見てもカールした長い睫毛が印象的だった。「ありがとうございます。じゃあ、お言葉に甘えさせて」ママは穏やかに微笑むとピルスナーのグラスを手にした。そしてビールの小瓶を冷蔵庫から取り出した。小瓶は一瞬で曇るくらいに冷えている。ママは小気味良い音を立て、慣れた手付きで栓を開けた。「どれ」森田さんがママから小瓶を優しく取り上げてみせた。「あら、すみません」森田さんはママのグラスに琥珀色のビールを注いだ。「ほら、お前さんも」森田さんは俺のウイスキーグラスを顎で差した。「はい」「では」森田さんがグラスを上げた。「何に乾杯します?」ママは猫のような大きな瞳で上目遣いに森田さんと俺に視線を送った。俺はドキッとして視線を慌てて森田さんに向けた。「そうだなぁ」森田さんは顎に手をあてた。「お前、何かないか?」森田さんは俺はに投げた。「えっ…」俺は少しばかり考えてから「では、お2人に」と提案した。「アホか」森田さんは再び顔を赤らめた。「ダメですか?」俺は顔を覗き込んだ。「当たり前だろ」森田さんは言ってクイっとウイスキーを含んだ。「先に飲んじゃってる…」俺はその様子に苦笑した。「当たり前なんですか?」俺は森田さんに尋ねるように言うと、今度はママが前のめりになった。「ダメなんですか?」ママは森田さんを追い込むようにカウンターで頬杖をついた。最早、少女のようにしか見えなかった。「いや、俺はいいけど」森田さんは窓の方に視線を逃した。「私もですよ」ママはグラスを軽く上げた。「じゃあ、決まりですね」俺は偉そうに仕切った。「分かった」森田さんは深く頷いた。「では、お2人に…」俺は言った。「乾杯」3人でグラスを合わせた。細やかな幸せは、実は直ぐそばにあるものなのかも知れない。それに気が付くか気が付かないか、目を向けるか背けるかだけの事だった。こんなガキの俺にでも、その気になった奴にだけ、この街は何かを与えてくれるのかも知れない。幸せもそうだ。気が付かないのではない。気が付かないフリをしているだけなんだ。何故なら、失う事が怖いからなんだ。崩れてしまうのが恐ろしいからなのだ。幸せに慣れていなかった今までの俺はそう考えていた。何かを手にした分、奪われてしまったらもう2度と手にする事が出来ない…そう思い込んでしまうからだ。窓の向かう。遠くで長いクラックションか聞こえた。今夜、1度や2度じゃない。何度も鳴っていた。この街には生き急いでいる者が多い。そしてこの街が眠る事はない。一睡もせずにまた次の日を迎える。この街に朝が来たら朝の人間が動き出し、夜になれば夜の人間が今度は徘徊する。その繰り返しが永遠と続く。この街に憧れた奴は止められても足を踏み入れてしまう。そしてこの街に染まっていくのだ。街を離れたければ好きにすればいい。誰も止めやしないし、去りゆく者など誰も覚えてはいないのだ。寂しくて儚いからこそこの街には人が集い、マイナス同士の化学反応な爆発的なエネルギーが発生するのだ。それがこの六本木という街だ。俺は談笑する2人を見ながらガラにもなく俺自身の幸せってモンを考えてみた。幸せなんて来ない方がいいに決まっている。そう勝手に思い込んでいたんだ。来てもどう扱っていいか分からないからだ。そして幸せは自ら掴みにいくものではなく、待つしかないと思っていた。懸命に生きて来た者だけに、いつかの日か向こうからやって来てくれるものなんだと思っていた。その幸せが訪れる回数が多いという奴がごく偶(たま)にいる。そういう奴は生まれた時から強運を持っていて、そういう星の下に生まれて来た奴等だと俺は思い込んでいた。だから俺みたいな田舎者の貧乏人で、かつ才能も無ければ努力もしない奴には、なかなか訪れる訳がないと決めつけていた。それでも神様が気まぐれで、何年に1度とか何十年に1度とか、下手したら一生に1度だけ幸せが回って来る時がある。神様は慈悲深いからだ。だが、俺を含んだそういった人種の奴等は折角の神様からはプレゼントに、全く気が付かかなかったりして、残念ながら掴む事が出来ずに、そのチャンスを終わらせてしまう。自分自身の指で掴む事が出来ない。掴もうとしない、という言い方が適切だ。もっと分かりやすく言えば、掴んだ所で、例えばそれが幸せの花の種だとしたら、その花を咲かせる自信も知恵もないし、咲かせたら咲かせたで咲かせ続ける手段も知らないし、咲かせる努力もしないのだ。俺が最も恐れている事ある。それは、その大切な花を枯らせてしまうのではないかと思う事なのだ。それが嫌なのだ。優しいと言えば聞こえは良いが、ただ単に気が小さい臆病者というのが真実なのだ。だけど、東京に来て少しだけ変われた気がしている。もしかしたら勘違いをしているかも知れない。それでもいい。こんな勘違いなら悪くない。俺はこの店で生まれて初めて思った。幸せになりたいと…。きっと森田さんは今夜、ママに気持ちを伝えるのだろう。戸籍上ほ同性とされている2人だから結婚は出来ない。こんな2人に会うなんて。こんな経験は初めてだ。これが東京という街なのだ。閉鎖的な町で生まれ育った俺は不思議な事にとても清々しい気持ちになれた。我慢も無理もしなくていい。堂々と好きな事を追い求めて生きていけばいい。誰にも迷惑を掛けなければ、自分に正直に生きていけばいい。ルールを守り、正しく、誠実に生きているのならば人の目なんて気にしなくていいのだ。大切なのは自分自身に嘘や偽りなく生きる事なんだ。この2人はそう教えてくれた。この街には自由がある。この街にはチャンスがある。そんな風に思えた夜だった。故郷に残した家族の事は忘れた事はないし、申し訳ない気持ちはあったが、心から上京して良かったと思う気持ちの方が強かった。ママも森田さんの気持ちには気付いているに違いない。職業柄、誰よりも人の心の内側に気が付いてあげられる人であろうから。特に森田さんの事をママは誰よりも理解しているように思えた。だから森田さんを他の客とは少しばかり違った感じで、特別な風に見ているように俺には思えた。もうすぐ夜明けだ。窓の外、防衛庁の向こう側。空の色が紫色に薄まり初めていた。森田さんは目をトロンとさせていて、時折無言になるとニヤニヤと笑ったり、長い息を吐いたりしている。そりゃそうだ、今夜はかなり飲んでいる。それでもママは嫌な顔1つとせず、その様子を嬉しそうに見守っていた。とても静かで、とてもいい夜だが、そろそろお開きだ。邪魔者は先にお暇しなければ。森田さんに取ってもママに取っても今宵は生涯忘れる事ない素敵な思い出の夜になるのだから。ただ、森田さんは目覚めた時に忘れている可能性がある。そして慌てふためいてママに平謝りするのだろう。そんな微笑ましい2人の未来を想像して俺は笑いを噛み殺した。「森田さん、俺そろそろ帰ります」ママが席を外したタイミングで俺は微睡む横顔に告げた。「ん?」案の定、森田さんは聞き返した。「そろそろ俺、帰ります」俺は少しゆっくりとハッキリと言った。「そうか、ちょっと待ってな」森田さんは酒臭い息を撒き散らしてポケットから財布を取り出した。「タクシー代なら大丈夫です。少し歩きたい気分なんで」「そうか…」と森田さんは財布を内ポケットに仕舞った。やはりタクシー代を渡そうとしていたのだ。たとえ泥酔していても、男気だけは忘れない人だった。俺もこの人みたいなりたい…。本当にそう思っていた。続きをみる

  • 短編・六月の雨2024⑥
    on 2024年6月29日 at 15:16

    森田さんのラジオに対する一方的な説法は降車するまで続いた。よくもまあこれ程までに他人の悩み事でヒートアップ出来るものだと俺はつくづく感心していた。ただ、あれだけ暴言に近い発言をしつつ、何処かで愛情のようなものを感じるから不思議だった。森田さんの言葉の端々にはしっかりと温度がある。だから森田さんが魅力的に映って見えるのだろう。あの悩みを送った17歳のリスナーも説得力の無いパーソナリティも、森田さんに会ったらきっとこの不思議な魅力に引っ張られて好きになるのだろう。森田さんは料金メーターの4260円を見ると1万円札を出し「釣りはいらない」と、映画スターのように羽振りよく降りた。タクシー運転手は運転中の態度とは打って変わって嬉しそうに金を手にすると何度も頭を下げていた。先程の中華料理店でも同じように多く支払っていた。貧乏な俺からしては何とも羨ましい限りだったし、森田さんの漢気に益々魅了されていた。「お客さん」運転手が森田さんを呼び止めた。最後にもう1度礼を言うのかと思ったらそうではなかった。「俺もあんたに同意見だ」運転手は体を後部座席側に捻りながらラジオの感想を伝えた。狭い車内では聞こえない筈はなかった。そしてどうやらラジオの内容に同じような感情を抱いていたようだ。「ああ、そうかい」森田さんは少し口角を上げると歩き始めた。粋な大人2人の会話を耳にし、俺は晴れ晴れしい気持ちになった。その後、自己嫌悪感に苛まれた。今の自分は森田さんやタクシー運転手と同じようなやり取りが出来るのだろうかと考えてみたが、きっと無理であろう。年齢的なものや収入的なものだけではない。単純に俺も歳を重ねたとしても同じようにするとは到底思えないし、収入があれは大盤振る舞いするとも思えなかった。金を手にしたらしたで、きっとケチ臭く生きていく気がしてならない。俺はきっとそんな奴だ。要は根本的な造りが違うのだ。つまり性格的に俺と森田さんとは大きな違いがあり、それが問題なのだ。この性格の核となる部分はきっと変わりようがない。ただ環境や状況である程度の印象は変わる。少なくとも東京に出て来てからの俺は、田舎で暮らしていた時とは随分と変わったに違いない。内向的な部分は変わりないが、大都市渋谷という人種の坩堝(るつぼ)でアルバイトをするようになり、見知らぬ者とも挨拶を交わし、誘われれば大抵の場合は断る事もなく付き合っている。だとしたら、このまま森田さんと過ごしてさえいれば、俺も豪傑豪快な人間になれるのかも知れない。勿論、見習いたくない部分も正直あるが、さっきのような漢気を身に付けて、それを真似してみたいと憧れを抱いていた。六本木を歩きながらも俺は自分自身をぼんやりと振り返り続けた。森田さんは変わらず、すれ違う者のおかしな行動や変わったファッションを見ては「見てみろ。酒は飲んでも飲まれるなとは言ったもんだな」とか「あんなジャケット、金を積まれてでも俺は着ない」と止めどない寸評を繰り返している。逆に俺は良くも悪くも他人の言動に興味がなかった。自分の人生ですら行くあてもなく、ただ過ぎ去るのを待つだけの毎日なのだから、いちいち他人を気にして過ごす事などはしない。俺自身が何処に向かって行くのかも分からず、どうなりたいのかも見つかっていないのだから。今夜だってそうだ。元々は真っ直ぐに帰宅する予定が、森田さんが誘ったからじゃあ一緒に過ごすかとなっただけだ。最初は軽く飲むつもりだったのに、今はどうだ。結局、街を変え、日付けが変わってまでも飲み歩いているではないか。そう。俺はそうやって人や状況の波に流されて生きてきたのだ。潮流を変えようと一念発起して家を飛び出した。上京したまでは良かったが、結局は何も変わっていなかったのではないのか。きっと何も変えられずに俺は人生を終わらせるのだろう。そんな気がしてならなかった。六本木は今夜も多くの酔客で溢れていた。顔を赤らめている者、千鳥足のサラリーマン、徒党を組んで歩く学生達、腕組みして歩く客とホステス、そして大声を出して闊歩する外国人。皆が自分の意思で自分の人生を楽しんでいる。渋谷とは違う熱気がこの街には籠っている。六本木では人種も出身地も年齢も関係ない。金と力のある者だけが自由を許させる風潮があった。ハッタリやごまかしが効かない分、渋谷よりも過ごしやすいのかも知れない。いわば渋谷はガキの集まるテーマパークのようなカラフルな街だ。ポップで最先端。流行だけが全てで、個性がまるでない。トレンドの服に身を包み、ヒットチャートの曲を知らないと置いてかれる。全てが情報操作された偽りの街。それがチープな街・渋谷だ。こんな街では俺のようなヤサグレた奴が友達など作れる訳がなかった。そもそも俺が渋谷から出るべき人種なのだろう。防衛庁の近くで「あそこの店だ」と森田さんは道路を挟んだビルを指差した。道の反対側、横断歩道を渡ったそこは8階建ての雑居ビルで、外付けの看板の全てには飲食店の名が連なっていた。ビルの前のガードレールに腰を下ろしてたむろする3人の若者がタバコを蒸している。この街で多く見かけるような半グレ感もなく、一見ごく普通の学生に見える。彼等と俺はそんなにも年齢は変わらないであろう。繁華街のど真ん中。わざわざ人通りの多い路上にたむろっている理由がどこにあるのだろう。何かがおかしく思えるのは、まだ俺の中にまともな部分が残っているからなのだろうか。彼等の前を通る者、特に女性達は明らかに怪訝な目を向けている。絶対に関わらないようと大回りして歩いているのを彼等は気が付いていないようだった。そもそも人目を気にしない奴等だから、こんな所で酔って大声ではしゃげるのだ。俺は同世代の彼等を見て何か腑に落ちないでいた。何をされた訳でもないのに。俺は勝手に小さな怒りを生み出し、それを誰にも言わずに消化していくだけだった。エレベーターに入ると最上階のボタンを森田さんは押した。大人4人で窮屈になってしまう狭いエレベーターには俺達だけだった。エレベーターに入ると顔を背けたく成る程のアルコール臭が強く残っていた。やはりこの時間でも多くの人が行き来しているようだ。きっと自分も同じように撒き散らしているのだろう。店の名は『クイーン』というバーだった。エレベーターの扉が開くと、目の前がその店の入り口だった。ワンフロアに1店舗だけなのは、それだけ建物自体が細長い造りとなっているからだ。ゴールドの鉄製のドアは目の高さにガラスの反射板が嵌め込まれている。そこに英文字で『Queen』と刻まれている。ドアの横には胡蝶蘭が2鉢置かれている。この花があるかないかで六本木感が増す気がした。それだけこの街は渋谷とは違い、基本俺のようなガキは少ないと言える。だからこそ路上にたむろう輩を見ると腹が立たのかも知れない。自分の事は棚に置いての話だが。当然森田さんの行き付けのバーなのだろう。一見では入り難い雰囲気があるが、森田さんは躊躇なくドアを開けた。店内の雰囲気は俺の予想に反したものだった。賑やかな喧騒から一転して、落ち着いた雰囲気でウッド調のクラシカルな店だった。続きをみる

  • テレビを面白くした人達①佐藤義和氏vol.1
    on 2024年6月27日 at 11:12

    僕の中でテレビを面白くしてくれた尊敬するテレビマンが10人います。今回はその方々をご紹介していきたいと思います。先ずトップでご紹介したいのはバラエティ王国・フジテレビの黄金時代を使ったお1人です。まさに【楽しくなければテレビじゃない!】というフジテレビの代名詞のようなキャッチコピー。それを世に広めた立役者のお1人が本日の主役、佐藤義和さんです。続きをみる

  • 短編・六月の雨2024⑥
    on 2024年6月26日 at 21:34

    「働いているの渋谷なんだよな。出会いなんざ沢山あるだろうよ」閉店前の深夜のラーメン屋。暖簾の向こう、厨房からはガシャガシャと食器を洗う音がしている。俺たち以外に他に客など居ない深夜のラーメン屋。昼間も入るのか心配になるくらい殺風景で愛想の悪い店だ。森田さんは最近の天気の悪さからスタートさせた話題を、途中から完全に俺のプライベートな部分にメスを入れ始めていた。陰鬱な灯りを放つ蛍光灯が、チープな店内を余計に寂しいものにしている。「あの街のイイ所は色んなジャンルのチャンスがゴロゴロ転がっているところだ」「チャンス?」俺はつまみを口に含んで訊ねた。「ああ、仕事のチャンスとかな。普通の街より職の数は多い。芸能界へ入るチャンスだってそうだ。街を歩けば声をかけてくる関係者はごまんと居る」俺はリリーさんの顔を浮かべた。「それだけじゃない、教育のチャンスもそうだ。高校や大学、専門学校の数も選びたい放題だ。田舎は違うだろ?離島なんか学校に通うのに毎日船に乗らなきゃならない所だってある」俺の頭の映像は故郷に変わった。「病気になっても治してくれるチャンスがある。夜間までやっている病院はあるわ、腕の良い医者はいるわ、先進医療を頼めわ、勿論金はかかるがな。呼べば救急車が直ぐに迎えに来てくれる」確かにそうだ。俺の生まれた町では考えられない規模の病院がゴロゴロと建っている。「そして出会いもそうだ」その言葉でリリーさんが再び俺の空っぽで暗闇に包まれた脳の中に浮かび上がった。ゴロゴロ居るかも知れないが、キラキラした人は1人も居なかった。そう、リリーさん以外には。「街を歩けばワンサカ居るだろ?例えば店が終わった…」森田さんは続けたが、殆んど耳には何も届いていなかった。俺の脳内はリリーさんで満たされていた。富士額の広いおでこはまるで陶器のように滑らかだった。綺麗な艶髪を後ろに束ねている。あんなにも綺麗な髪の人など、このスレた街で1人も見た事がなかった。「…お前さんがこの街を歩きさえすればイイ子に出会うえると思うんだ…」小さな顔にひときわ目立つ大きな瞳。ただ小顔なだけではなく、バランスが良い整った顔立ちはハーフのようにも見える。実際、家系がそうなのかも知れない。うだつの上がらない俺はいつもと同じジーンズにTシャツ姿という見窄らしい格好をしている。買い物などには滅多に出掛ける事はなかったし、ファッションにも興味がなかった。渋谷を歩く理由は職場があり、住む家がその街にあるからに他ならない。「お前さんも、そこそこ若くてハンサムなんだし…」森田さんは俺を思い話し続けているが、俺の方はリリーさんが脳裏から離れないままだった。筋の通った高い鼻。上向きの長い睫毛がとても印象的だった。目を伏せている横顔をまさに絵画のような美しさだ。中学の美術の時間に見た教科書に、傘をさした貴婦人みたいな絵が載っていたのを思い出した。何も考えず、ただパラパラと暇つぶしに巡った教科書だから、誰の何という作品かは全く覚えていない。今に思えば、ちゃんと勉強しておけば良かったと、大人になるとこういう時に反省をするものなのかと急に場違いな事を思った。それは美術に限らずだが。続きをみる

  • 短編・六月の雨2024⑤
    on 2024年6月22日 at 18:56

    「ご馳走様」店前まで見送ると、リリーさんは振り返って言った。揺れた髪が頬をに重なり、リリーさんは髪を耳にかけた。「いいえ、また是非来て下さい」俺は自分でも笑ってしまうくらい、すっかり客商売に慣れた手付きでドアを開けて促し、頭を下げている。「うん、店長にも宜しくね」八重歯を見せて笑うリリーさんを少しでも長く見ていたい。俺はなるべく会話を引き伸ばした。「はい。リリーさんもライブまで大変だと思いますけど頑張って下さい。俺、ライブ絶対に観に行きますから」俺はガッツポーズをしながら約束した。「あっ…」リリーさんは口をパックリと開いた。「忘れ物ですか?」俺は店内を振り返り、リリーさんの座っていたテーブルに目を向けた。「違うの。大事な事、言い忘れてた」「大事な事?」俺はドアを閉めながら首を傾げた。「そう、大事な事」「何です?大事な事って」「気になる?」リリーさんは悪戯な目付きで俺を覗き込んだ。「そりゃあ、まぁ」リリーさんがあまりの顔の近付けたものだから、俺は恥ずかしくて鼻の頭をかいた。「あのね…」上目遣いで俺を見るリリーさん。「はい」俺は無意識のうちに背筋をのぼした。「あのね」リリーさんの香水が俺を擽る。「は、はい…」ドクって音を立てて俺の心臓は高鳴った。「ライブ出てくれない?」リリーさんが拝むように手を併せた。「えっ?」俺は間の抜けた声を上げた。「是非、一緒に、お願い」顔の前で手を合わせるリリーさん。俺の心音は高鳴る一方だった。「あっ…そっち、ですか」俺は急に恥ずかしくなった。「そっちって?」今度はリリーさんが小首を傾げた。「いいえ、それより、俺が…ですか?」俺は慌てて話を戻した。「そう、どう?」「俺がライブに?」「そう、俺がよ」「冗談…ですよね?」「本気よ、だって笑えていないでしょ?」「まぁ確かに…」俺は困惑した。「で、どうするの?」有無を言わさぬ言い方だが、俺は少しばかり抵抗を続けてみた。「ちょっ、ちょっと待って下さい。あまりにも話が急過ぎて」「じっくりも急もないでしょ、こういう非日常的な話に」「確かにそうですけど…」リリーさんはなんだかこのやり取りを楽しんでいるようだった。「俺がリリーさんのライブに…出る?」「出る」「観るんじゃなくて、出る?」「そう出る。で、1曲でいいからさ、弾いてくれない?歌うのがどうしても嫌だったら私が歌うから」「いや、ちょっと待って下さい」「いいよ、待つけど。で、何?」「えっ、何って…」俺はライオンに追い詰められたような気持ちだった。「お前さ」ゴミ袋を手にした店長が割って出できた。「こんなありがたい話ねぇだろよ」見かねた店長がリリーさんに加勢してきた。俺を助けると思いきやだ。きっと少し前に店長には相談していたのだろう。根回しというよりも、バイトを休む事になる訳だから、その辺の事で俺にも店長にも迷惑をかけないようにという大人の配慮でだ。という事はだ。100%俺はライブに出演するという事のようだ。「なのに何でウジウジしてんのよ、え?」店長はゴミステーションに45リットルサイズのゴミ袋を放り投げると、パンパンと叩き落として掌を腰に当てて続けた。「別に面白ぇ事やれって言われてんじゃねぇんだろ?」「そうですけど…」「サッと出て、チャッチャッと弾いて、パッと帰れりゃいいだろうが、なっ?」店長は言って、酔っ払いが絡むように腕を俺の首に回してきた。「は、はい…」ヘッドロックをされた状態で俺は答えた。引き受ける他なかった。「よーし、出るってよ」「て、店長…」ほぼ泣き寝入りだ。「じゃあ、宜しくね!」リリーさんはウインクした。「はい…」「詳しい事はまた明日にでも」「はぁ…」「あっ、ホントご馳走様!」そう言ってリリーさんはセンター街の方へと消えた。俺は手を振っていつまでも背中を見送った。喫茶店のドアに鍵を掛けた時には、既に22時が過ぎていた。今日の店はやけに混んでいたが、俺の身体はエネルギーに満ち溢れていた。道玄坂を歩いた。渋谷のネオンは煌々と輝きを放っている。街はまだまだ眠りにつこうとしないどころか、逆にこれから目覚めた者が更に集い始めようとしていた。夜風がとても心地よかった。風に街路樹が揺れるとアスファルトに落ちた現実的なネオンの光も、なんだか抽象的な光のアートに見えなくもなかった。普段目にも入れようともしない渋谷の街並みが綺麗に感じるくらい気分が良かった。入り組んだ路地を抜け、自動販売機を通り過ぎると周囲の民家に重なるように俺の住むアパートの屋根が見えてくる。古ぼけた甍(いらか)のその上には、ぽっかりと雲の切れ間に穴を空けたように浮かぶ白い月がこっちを見ている。俺は足を止めた。月がこんなにも明るいものなのかと、俺は久々に気がつかされた。この大都会に住んでいると街のネオンに月は隠されてしまうからだ。故郷の田園風景が頭をよぎる。家族は今どんな思いでこの月を見ているのだろうか。この街にあり、あの町に無いものが沢山あった。だが逆に言えば、あの町にあって、この街に無いものもあった筈だ。月は何処に居ても、何処で暮らしてもそのものは一緒だ。だとするならば、全ては感じ方で見え方は変わるというのか。当時の俺は若過ぎて、その答えを見つける事は出来なかった。俺は大きく息を吐き捨てるとアパートへと向かった。錆びついた階段も今夜は軽やかに上がる。まるでダンサーがステップを踏んでいるのかの様に、狭い路地裏に響く靴音も何だかとても小気味良く、いつもとは違って聞こえた。この界隈に渋谷の喧騒が届く事はなかった。時折、パトカーや救急車など緊急車両のサイレンが聞こえるくらいで、この時間は近所の飼い犬か野良犬がたまに犬が鳴くくらいだった。「おい!」誰かに暗闇から声を掛けられ、俺は咄嗟に身構えた。俺は階段途中で足を止め、声のする方に目を凝らした。「よお、坊や」その方向に人影が浮かんでいる。薄暗い街頭が灯る電信柱に誰かがもたれていた。タバコの赤い火が蛍の様に浮遊している。その人影がゆっくりと動いた。「俺だよ」手を挙げたその人が階段下へとやって来た。俺の身体から緊張が解かれた。「元気そうだな」森田さんだった。街頭はあるにせよ顔は影がハッキリと見えてはいないが、鈍色に怪しく光る革の靴だけでそれが森田さんだと認識出来る。俺は森田さんの歩幅に合わすようゆっくりと階段を降りた。「驚かせちまったな」「いいえ」「死人でも見るよう顔してたぞ」「死人など見た事がないので、どんな顔か分かりませんが」そういうと森田さんは「そりゃそうだな」と笑った。「ちょっいとばかり面かせるか?」俺は首肯した。「疲れてないのか?」「大丈夫です」「仕事終わりか?」森田さんはタバコを足元に落とした。「はい」「明日も朝からだろ?」「朝って言っても10時前に店に行けばいいんで大丈夫です」森田さんは直ぐにタバコを咥えた。顔がライターの火に浮かぶ。その顔が少しやつれているように見えた。「腹は?」「特に。あればつまみます」「分かった、じゃあ軽く」俺達は通りへと向かった。「飲むか?」「いただきます」俺達は2度目となるラーメン屋へ入った。思えば此処で森田さんにご馳走になり、俺はギターの魅力に取り憑かれた。そんなきっかけとなった古くから続く町中華だった。「俺は冷やを、坊やは?」森田さんはメニューを見ずに森田さんと同じ日本酒頼んだ。他に客は居ない店内にはニュース番組が流れている。画面に目を向けていた森田さんが俺を見た。森田さんは何故か嬉しそうに片眉を上げた。「じゃあ、日本酒を4合くれ」森田さんは指を4本立てた。身体の割には細い指をしている。ギタリストというよりも、どちらかといえばピアニストのような繊細さを感じる。「あいよ」閉店間際の長居しそうな客。コップの水を2つ無造作に置きながら店員は気怠そうに長い返事をした。前とは違う店員で日本人ではなかった。「それと…」森田さんは壁掛けのメニューに目を通して焼豚、奴(やっこ)、砂肝をサッと頼んだ。「とりあえず…」森田さんは俺に何か他に食べたい物はあるかという風な目配せをしてので、俺は首を横に振った。「…じゃあ、そんなもんで」森田さんが言うと「あいよ」と、店員は同じ返事を繰り返した。彼女は厨房の手前で奥の店長にカタコトの日本語で伝えた。この街に来て感じた事は人や車の多さだけではなく、外国人や外国語表記のものが多い事だった。欧米人や黒人よりもアジア系外国人、特に中国系の外国人の多さに俺は驚いた。深夜営業の店には沢山の外国人が雇われていて朝まで働いている。そこには英語やだけではなく中国語、韓国語など様々な言語が飛び交い、日本語の案内の下には決まって英語で訳され、その下には急遽付け加えたかのように中国語(恐らく北京語だろう)が表記されている。俺にとってはまさにリアルな国際的都市の象徴だった。テーブルにトン、トンと重なったお猪口と徳利が2つ置かれた。店員は無言で置くと、そのまま無言で踵を返した。「ほら」森田さんは徳利を差し出した。俺はお猪口を1つ取り、1つを森田さんの前に置いた。「すみません」森田さんが冷酒を注ぐ。注ぎ終えると、今度は自分のお猪口に手酌した。「じゃあ」「はい」「お疲れさん」「お疲れ様です」森田さんはクイっと一気に煽った。「カーッ」森田さんは満足そうに顔を皺くちゃにした。「いただきます」俺も思い切って真似をした。森田さんの飲み方が何だか粋に見えたからだ。「カーッ」胸が一瞬で熱くなる。喉が焼かられたようにヒリヒリとし、胃袋に熱湯が流し込まれたような熱さを感じだった。「ゲホッゲホッ…」俺は咳き込んだ。森田さんはその様子を見て笑った。「おい、大丈夫か?」「大丈夫です、すみません」俺は胸を押さえた。「無理すんなよ」「大丈夫です、ホントに」俺は子供扱いされるのが嫌で森田さんの真似をして飲んでみたが無理だった。「こんなもんな、そもそもチビチビやるもんなんだ」少し涙ぐんだ俺に森田さんは胸元のチーフを差し出した。俺は掌で制した。「ありがとうございます。変な所に入っただけでマジ大丈夫ですから…ゲホッ」「おいおい、言わんこっちゃねぇ。おい、お姉さん、お冷2つ持って来てくれ」「あいよー」森田さんは嬉しそうに目を細めた。俺はまだまだガキなんだなと、こんな場末のラーメン屋で教えられた。俺は運ばれた水を胃に流し込んだ。続きをみる

  • 短編・六月の雨2024⑤
    on 2024年6月21日 at 10:19

    「ライブ決まったんですか!」「うん、まあね」客もまばらな月曜日の午前10時過ぎ。喫茶店を訪れたリリーさんが照れ臭そうに教えてくれた。俺はリリーさんにコップの水とおしぼりを渡し、代わり手にしたライブのフライヤーを喰い入るように見た。モノクロのチラシにはリリーさんの名前と写真、ライブ会場と日時などの詳細が記載されていた。「渋谷の小さなライブハウスなんだけどね」「おめでとうございます」チラシに『初ワンマン』と書かれた文字を見つけて、自分の事のように、いやそれ以上に俺は喜んだ。リリーさんはありがとうと一言添えてから水を一口含んだ。「ホント凄い事です」「ううん、全然小さな小屋だからあまり期待値を上げないで」「でも、本当におめでとうございます」「ありがとう。でね、オーナーが私の店の常連だったから、たまたま音楽やっている話をしたら使っていいよって」「お店?」「えっ、あ、うん」本業なのかバイトなのか。リリーさんの事は何も知らなかった。店長はまだ来ていない。恐らくランチ前の1時間後あたりに眠たそうな顔をぶら下げて来る筈だ。折角なので俺は色々な事を訊いてみた。もっともっとリリーさんの事を知りたかった。「何をやってるです?」「飲み屋みたいな所」リリーさんは少し早口で答えた。「そうなんですね」俺は何だかそれ以上は訊いてはいけない気がしてリリーさんの続きを待った。「でね、平日の夜ならまるまる空けてくれるからって」「凄い…」溜め息にも似た心からの声だった。俺は自分の事以上に喜んだ。「だからそんな大した規模じゃないから」「遂にデビューですね」「辞めてよ。別にレコード出す訳じゃないんだから」リリーさんは俺の言葉に重ねるように否定した。「ただの身内のライブよ。だから本当に大した事ないの。フライヤー配って誘っているのもこうして知り合いばかりだし」「でも俺なんかにしたら凄い事ですよ。だって人前で歌う訳だし」「うん、まあそりゃそうだけど」「会場には何人くらい入るんですか?」「満員でも100人程度だから」「100人も」「だから満員ならね。私の場合は良くて30人くらいかな」「30人だって凄いですよ」「そんな事ないよ。でも今から緊張しているかも」リリーさんは肩をすくめた。その時、楽しい会話を打ち切るようにカウベルが鳴った。「いらっしゃい」俺はドアの方に作り笑顔を浮かべ、溜め息混じりに言った。よく見かけるアパレルのショップ店員だった。必ずアイスコーヒーとガムシロを2個注文する常連だった。「あっ、まだ注文してなかったね。私カフェ・オ・レのホットね」「はい」俺はフライヤーを四つ折りしてエプロンのポケットにしまった。「お待たせ致しました」俺はリリーさんのテーブルにカフェ・オ・レとサンドイッチを置いた。喫茶店のガラスの向こう、まばらだった人の行き来が増え始めている。「えっ、頼んでないけど」リリーさんはオーバルのステンレス皿に盛られたサンドイッチに顔を上げた。「サービスです」俺は鼻の頭を指先で掻きながら、他の客には聞こえない声で言った。「えっ、悪いわ」リリーさんも俺の声に合わせるように、細い首を細かく振った。「お腹空いてないですか?」俺は眉を少し上げた。カッコつけたつもりがもしかしたら余計な事をしたのかもと。サンドイッチはハムと胡瓜、チーズとトマト、レタスとエッグの3種類だった。食パン3切れ分なのでリリーさんに取ったら結構なボリュームだったのかも知れない。「もし、お腹空いていなかったら包みますので午後にでも…」「ううん、朝から何も食べてないけど…」俺より歳上のリリーさんは遠慮し、少し困った顔を見せた。単純に俺の財布を気にしてくれての事だろう。「ライブ決まったからそのお祝いです。今度ちゃんとした物、用意しておくので」どうせなら消え物ではなく、何か残る物にしたかったが、それはそれで迷惑なのかも知れない。好きでもない男からのプレゼントなど物によっては重たく感じるだろう。しかも歳下の男だ。そもそも歳上の女性に何をプレゼントして良いものか分からないし、大した金も持っていないこの俺が、リリーさんの満足するプレゼントを買う事が出来るかどうかも微妙だ。特にセンスの塊でもあるリリーさんに。「ううん、ホント気にしないで」優しく微笑むリリーさんの向こうで、カウベルが鳴り、店長が入ってきた。「おはよう、うわあ」寝癖の頭をボリボリと掻きながら店長は大欠伸をした。「おはようございます」「なんだリリー、来てたのか」「うん、おはよう」「おっサンドイッチ頼んでくれたのか」「違うの…」リリーさんは俺がサービスで出した事を、俺はリリーさんがライブをする事を伝えた。「リリー、そこまで遠慮するモンじゃないだろうよ」キッチンでやり取りを聞いていた店長が、見るに見かねて顔を覗かせた。「でも…」「たかがウチのサンドイッチくらいでよぉ」店長は自嘲した。それでもリリーさんは困惑していた。「コイツだっさぁ、頑張って作ったんじゃねぇか。それもこんなに忙しい時間帯にわざわざって全然忙しかねぇか」店長は口を広げて笑った。それを見て、リリーさんは俺の顔を覗いた。「本当にいいの?」リリーさんは顔を明るくした。「こんなもので良ければ…」俺はつい口を滑らせた。「こんなもので悪かったな」店長は俺の額を指で突いた。「あっ、すみません」俺は頭を掻いた。「でもホント遠慮するようなシロモンじゃないんだからさ、チャチャっと食っちまえよ。ちゃんとコイツの給料から引いておくから」店長はそう言って下品に笑った。「さぁ」店長は更に促した。「そう…」リリーさんは俺を見た。「どうぞ」俺も掌を向けた。「じゃあ、遠慮なく戴きます」リリーさんは笑顔で手を併せた。「どうぞ、ごゆっくり」俺は微笑んだ。「ああ、ゆっくりしててってな」店長がキッチンに戻ろうとすると、リリーさんは「あっそうだ」と、店長を引き留めて袋を差し出した。「良かったコレ、店の何処かに置いてもらえないかな?トイレでも何処でも良いから」袋の中には俺が貰ったものと同じフライヤーが50枚程入っていた。「ああ、勿論」店長は受け取ると少し考えて「じゃあ、入り口の脇のピンク電話の台の下に置いて…あと手洗い場の脇にでも貼っとくか。あそこなら確実に目立つしな」と、言って俺に袋ごと渡した。「ありがとう」リリーさんはとても嬉しそうだった。俺はそんな笑顔のリリーさんを見て、とても幸せな気持ちになっていた。誰かの為に働く。誰かの為に金と時間を使う事が、こんなにも清々しいとは思いもしなかった。それもこれも相手がリリーさんだからなのだろう。俺は軽くスキップでもしたくなる…実際には恥ずかしくてやりはしないが、そんな気分で接客に向かった。続きをみる

  • 50歳からのPOPな終活 余命25年と考えてみた⑥
    on 2024年6月19日 at 10:50

    シリーズ⑥回目となる今回は【仕事に対する姿勢】をお伝えして参ります。『働かざる者食うべからず』とは言え、将来的に年金受給だけでの生活安定の期待が出来ない今、リアルにこの言葉が胸に刺さって仕方がありません。続きをみる

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